『マグレブ、誘惑として』から(1)

映画『デルタ 小川国夫原作オムニバス』原作紹介その3。
「誘惑として、」が原作としている作品はふたつありますが、
まずは、タイトル「誘惑として、」の由来にもなっている
『マグレブ、誘惑として』をご紹介しましょう。
小川国夫『マグレブ、誘惑として』は、雑誌『群像』に発表され
1991年9月号から1年間(12ヶ月)かけて連載された小説です。
(単行本は1995年1月に講談社から刊行)
映画『デルタ』で原作としてとり上げられている他の作品と違って、
これは長篇小説です。
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小川国夫の小説には、作者自ら《半自伝》と読んだ作品群がありますが、
(「自伝」ではなく「半」自伝なんて考えるところがユニーク!?)
小川さん自身を写したような人物には、「柚木浩」「岩原房雄」という
ふたりがいます。(「ふたつの名前があります」と言ったほうが良いかも?)
『マグレブ』に出てくるのは岩房さん。62歳になった彼は、
「書けなくなって」いて肉体の衰えを強く意識しています。
何とかそこから脱したい、と思っています。
映画「誘惑として、」に出てくる場面は、そんな岩房の前に現われた
「小説が書きたい」と言う老人(半田)との対話のセクションで、
「薬(ヤク)の仲間」と題された章です。
「薬の仲間」という題は、その老人が語る話からきています。
太平洋戦争中、兵隊となって満州にいたころ、脱走兵がふたり、出た
という話です。そのころ日本軍では麻薬が常習されていて、
彼らは幻聴をきいていた、実は自分も聞いていた、と。老人はそう話します。
※明日11/21(日)、渋谷アップリンクXで上映中の
 金子雅和短編映画集『辺境幻想
 にて「誘惑として、」短篇バージョンがゲスト上映されます。
 ぜひご注目ください!

下窪俊哉