「他界」をめぐるミステリー?

映画『デルタ 小川国夫原作オムニバス』の原作紹介、その2。
小川国夫の短篇小説「他界」は、1995年、雑誌『新潮』1月号に発表されて、
同年6月、小沢書店から刊行された短篇集『黙っているお袋』に収録されたものです。
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小川国夫には、本人の習慣(趣味?)でもあった“散歩”から
発想されて生み出された小説がたくさんありますが、これもそのひとつ。
失踪した老人を探して、藤枝周辺の町や山を彷徨い歩く男女数人の物語です。
が、この作品は老人の失踪をめぐる“ミステリー小説”にはなりません。
人がこの世から消えるとは、どういうことか? とか、
その人をこの世にひきとめておきたいと願う人の気持ちとは何か? とか、
そういった人の頭では考え切れないような事柄を
“散歩”の感覚から炙り出そうとしたように感じられます。
「他界」はいまのところ、上記の短篇集にしか収録されていませんが、
現在では入手困難。それどころか、小川国夫の本はその大半が絶版状態で、
古本屋か図書館で探すしかありません。
映画『デルタ』の原作となった小説も、「ハシッシ・ギャング」以外は全て、
新刊書店で入手することはできない状況です。
下窪俊哉